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宝石の加工処理に関して

2020年4月14日 火曜日

宝石の加工処理に関して

INDEX

  1. 1. ダイヤモンドの加工処理は大きく分けて2つ
    1. エンハンスメントとトリートメントの違いは加工処理の度合い
    2. ダイヤモンドのみに施されるトリートメント「レーザードリルホール」
  2. 2. ダイヤや色石の処理に用いられるエンハンスとトリートメント方法
    1. ざらつきやクラックを解消する含浸処理
    2. 宝石本来の輝きを増幅させる加熱処理(通常)
    3. 宝石の色を改変させる加熱処理(拡散)
    4. 放射線処理やコーティングなど、宝石の色を改変する加工処理
  3. 3. ダイヤモンドや色石の加工処理は多種多彩!天然石にこだわるのなら鑑別書をしっかりチェックしよう

ダイヤモンドなどの鉱石は、原石をカット・研磨することによってジュエリーに仕上げます。
宝石の持つ魅力をより引き出したり、あるいは好みの形に仕上げたりするために、さらなる加工処理が施されることもあります。

以前は加工処理に対する区分や記載があいまいでしたが、現在は消費者への情報開示を求める声が高くなったことから、どのような処理が施されたのか、そのくわしい内容が鑑別書に記載されることになっています。

今回はダイヤモンドや、エメラルドなどの色石の加工処理方法についてわかりやすくまとめてみました。

ダイヤモンドの加工処理は大きく分けて2つ

トリートメントとエンハンスメント

ダイヤモンドの加工処理は、かつて「トリートメント」という呼び名で統一されていました。

しかし、処理の仕方によっては見た目や価値に大きな差が出てしまうこと、どんな処理が施されたのかわからないという不透明さが問題となり、1996年からは「エンハンスメント」と「トリートメント」の2つに区分されるようになりました。

エンハンスメントとは日本語で「改良・強化」という意味で、名前の通り、宝石が持つ美しさや可能性をより多く引き出すために行われる必要最小限の処理を指します。

一方、トリートメントはそのまま「処理」という意味ですが、放射線処理やレーザードリル処理など、より人工的な処置を施して見た目や色を変えることから、「改変」とも呼ばれています。

エンハンスメントとトリートメントの違いは加工処理の度合い

エンハンスメントとトリートメントの一番の違いは、加工処理の度合いの大きさにあります。
エンハンスメントの場合、加熱処理によって元の色をより際立たせたり、ワックスでざらつきをなくしたりするのが主で、宝石そのものに大きな手を加えることはありません。

そのため、日本ではエンハンスメントを行ったものは天然石とみなされ、宝石の価値が下がることはありません

一方、トリートメントは加熱によって元の色を変えたり、オイルや樹脂を含浸させて不要な空洞を埋めたりと、宝石そのものを大きく改変させる処理を施すため、できあがった宝石は天然石とはみなされません
そのため、日本ではトリートメント石または処理石と呼び、ナチュラルな天然石およびエンハンスメント処理石とは区別されています。

トリートメントも本来は宝石へのニーズに応えるための手法なのですが、過剰な加工処理による改変は長持ちしないため、市場での評価は総じて低い傾向にあります。

ダイヤモンドのみに施されるトリートメント「レーザードリルホール」

エンハンスメント、トリートメントともにさまざまな方法がありますが、そのうちダイヤモンドにしか行われないのが「レーザードリルホール(通称:「LDH」)」と呼ばれる加工処理です。

通称「LDH」と呼ばれるこの処理方法は、レーザーで孔(あな)を開け、ダイヤモンドの内包物(インクルージョン)、特に黒色のカーボンに対して王水(おうすい)と呼ばれる化合溶液を染みこませて漂白させることを目的としています。

無色透明のダイヤにおいて黒色のカーボンは非常に目立ちますが、レーザードリルホールで漂白すれば見た目の状態がかなり緩和されます。
レーザーで開けた孔は非常に小さく、肉眼では判別できないのでぱっと見た感じでは問題ありませんが、ルーペなら容易に確認できるため、鑑定ではすぐに見分けが付きます。

レーザー熱に耐えられるダイヤ限定の処理方法で、見た目はきれいになりますが、人の手が過剰に加えられたトリートメント処理に該当するため、買取価格や再販では天然石に比べて大幅に価値が下がります

ダイヤや色石の処理に用いられるエンハンスとトリートメント方法

レーザードリルホールはダイヤ限定の処理方法ですが、その他のエンハンスメント及びトリートメントはダイヤ以外の色石の加工処理にも用いられます。
ここでは代表的なエンハンスメント・トリートメント方法を4つ紹介します。

ざらつきやクラックを解消する含浸処理

無色のワックスやオイル、樹脂などを宝石に染みこませ、ざらつきや傷、ひび割れ(クラック)などをカバーする加工処理のことです。使用する素材によって目的がやや異なり、ワックスによる含浸処理は表面のざらつきをなくしてツヤを出すために行われます。

一方、シダーウッドオイルなどを使った含浸処理は、内部に傷やクラック(ひび割れ)が多いエメラルドなどに施されるもので、カットや研磨などによる亀裂の拡大を防ぐことができます。

ここまではエンハンスメントに該当しますが、エポキシ樹脂を染みこませる含浸処理は改変度が高いため、トリートメントとみなされます。
オイルに比べるとよりエメラルドの屈折率に近いため、見た目の改善度は高く、かつ揮発性がないので効果は長持ちしますが、処理石ということで市場価値は大幅に下降します。

宝石本来の輝きを増幅させる加熱処理(通常)

宝石を炉に入れ、1,000度以上の高温で加熱することによって黒みや青みを取り除く加工処理のことです。原石に含まれる色の成分は針状の結晶になっていることが多いのですが、高温を加えて結晶を溶かすと色の成分が拡散し、発色の度合いがアップします。

宝石本来の色がより際立つようになるため、ルビーやサファイア、トパーズといった色石に多用されます。人工的に着色するのではなく、あくまで宝石本来の色を引き出すために行われる処理なので、エンハンスメントに該当します。

市場に出回ってるルビーとサファイアの95%以上がこの加熱処理が施されていますので、加熱されていることが前提とされているので『通常』という言葉が用いられます。

宝石の色を改変させる加熱処理(拡散)

パパラチアサファイア
パパラチアサファイア

加熱処理の段階で微量の鉱物を入れ、表面に拡散・浸透させることによって宝石の色を変えてしまう加工処理のことです。ベリリウムという元素が使われることから、別名「ベリリウム核酸加熱処理」とも呼ばれており、宝石を桃色や橙色に変化させることができます。

このような拡散加熱処理が広く行われるようになった背景には、「パパラチアサファイア」の存在があります。
サファイアと言うと鮮やかなブルーをイメージする人が多いのですが、もともとサファイアとは、酸化アルミニウムの結晶からなるコランダムのうち、赤以外の色を持つ宝石全般を指すものです。

そのため、黄色や茶色、薄紅色などのサファイアもあり、これらはまとめてファンシーカラーサファイアと呼ばれています。
宝石としての価値は色によって異なりますが、特にピンクがかった橙色のファンシーカラーサファイアは「パパラチアサファイア」と呼ばれて珍重される傾向にあります。

パパラチアサファイアは本来、産出量の少ない宝石なのですが、21世紀初めにマダガスカル産のパパラチアサファイアが日本国内に大量に出回り、大きな話題となりました。

当時、日本で行われたIJT(国際宝飾展)に出品することが目的だったようですが、実際にはピンクサファイアにベリリウムを使った加熱処理を施した表面拡散処理パパラチアだったことが判明。

後に世界基準のパパラチアサファイアの色範囲の統一が行われ、10ピースのマスターストーンによって判別されるようになったため、拡散加熱処理されたパパラチアサファイアの鑑別書にはその旨が明記されるようになりました。

他の処理方法は宝石の美しさや耐久性を上げることを目的とした物が多いのですが、拡散加熱処理の場合、こうした問題が背景にあることから、悪名高いトリートメント処理として認識されています。

放射線処理やコーティングなど、宝石の色を改変する加工処理

宝石の色を改変する加工処理は拡散加熱処理以外にも複数存在します。たとえば発色の悪いダイヤモンドに放射線を照射する「放射線処理」を行うと、炭素原子と相互作用を起こして内部の結晶構造が変化し、無色透明のダイヤに人工的な色をつけることができます。

かつては名前の通り、原子炉を使って加工処理を施していましたが、極めて危険性の高い宝石に仕上がってしまうため、現在は電子線加速器を用いた加工処理が行われています。

他には、着色剤を宝石の表または裏面にのみ施すカラーコーティング処理や、多孔質の宝石に染料を染みこませて色を変えるペインティング処理などがあります。ただ、カラーコーティングを施した宝石は衝撃や強酸に弱く、ペインティング処理を行った宝石は経年劣化によって退色するなど、デメリットも少なくありません。

また、褐色などの色成分を除去する漂白・脱色処理もありますが、こちらは耐久性が著しく低下するため、さらに耐久性を高めるための含浸処理を行うのが一般的です。いずれのケースも過剰な加工を施したトリートメント処理に該当するため、宝石としての価値は高くありません。色石の中でも安価な値段で取引されているものは、こうした着色加工が施されたトリートメント石と思って間違いないでしょう。

ダイヤモンドや色石の加工処理は多種多彩!天然石にこだわるのなら鑑別書をしっかりチェックしよう

ダイヤモンドや色石の加工処理は複数あり、それぞれ内容や目的が異なります。
通常の加熱処理やワックス・オイルを使った含浸処理は宝石本来の美しさをより引き出すために行われるエンハンスメント処理なので、日本では天然石と変わらない宝石として扱われます。

一方、放射線処理や着色処理などのトリートメント処理を施した宝石は処理石とみなされ、ジュエリーとしての価値は著しく下落します。

予算などの関係から、あらかじめ納得して購入する分には問題ありませんが、天然石だと思って高いお金を払って購入したらトリートメント石だった...。などというトラブルは避けなければなりません。

現在はその宝石にどのような加工処理を施したか、くわしい情報が鑑別書に記されるのが一般的となっています。天然石のジュエリーを購入する際は必ず鑑別書をチェックし、どういった加工処理が行われたものなのか確認するようにしましょう。